血管外科について
足のむくみや静脈瘤(足の血管がぼこぼこしている)、閉塞性動脈硬化症(動脈硬化による足の血流障害)など下肢を中心とした血管疾患の診断および治療を行います。足が冷たい方、むくむ方、歩くと足が痛くなる方、足がよくつる方はご相談下さい。下肢静脈瘤に対する日帰り治療を行っています。
足の血管が目立つ(下肢静脈瘤)
下肢静脈瘤をご存じですか?太ももやふくらはぎの血管がぼこぼこ飛び出してきたり、血管が太くなって目立ってきたりしたら、それは下肢静脈瘤です。こぶ以外に足のだるさ、むくみ、こむらがえり(足がつること)もよく見られます。放置をすると、血管のこぶが増えるだけでなく、皮膚が痒くなったり、茶色に変色したりすること(静脈うっ滞性皮膚炎)があります。また、こぶの中の血液が固まって急に痛みを生じること(血栓性静脈炎)もあります。下肢静脈瘤は命に関わる病気ではありませんが、生活の質を向上させるため積極的に治療を受けることが望まれます。
静脈瘤のセルフチェック
以下の症状がある方は下肢静脈瘤かもしれませんので、当院にご相談下さい。
- 足の血管が浮き出る
- 足がだるくなる
- 足がむくんでいる
- 足がつることが多い
- 足の皮膚の色が変色している
静脈瘤になりやすい人
下肢静脈瘤は以下のような方に多く見られます。
- 40歳以上の女性
- 出産経験がある女性
- 血縁者(親や兄弟姉妹)に静脈瘤がある方
- あまり動かない立ち仕事の方(美容・理容師、調理師、販売員など)
- 肥満の方
未成年で静脈瘤がある方は先天性の血管奇形の可能性があるため、特別な検査が必要ですので血管外科医の受診が必要です。
静脈瘤の症状
下肢静脈瘤のタイプによって異なりますが、静脈瘤の症例には以下の症状が見られます。
- 足の血管が浮き出て目立つ
- 足の血管がぼこぼこに飛び出す
- 足がだるい、重い
- 足がむくむ
- 足の瘤が急に痛くなる(血栓性静脈炎)
- 足の皮膚が茶色に変色する(色素沈着)
- 足の皮膚に穴があいて、浸み出しが見られる(静脈性潰瘍)
静脈瘤のタイプ
静脈瘤の原因や瘤の状態によって以下のタイプに分類されます。
伏在型
体の表面近くにある比較的太い静脈を伏在静脈(大伏在静脈または小伏在静脈)といいますが、この弁が壊れたために血液の流れに逆流を生じることが原因で生じる静脈瘤です。ふくらはぎを中心にぼこぼこになった血管、足のだるさやむくみなどの症状が見られます。ストリッピング術や血管内焼灼術といった外科治療の対象となるのは主にこのタイプです。
分枝型(側枝型)
伏在静脈以外の表面の静脈が太くなって血管が目立つ状態です。この中には女性にのみ見られる陰部から大腿に広がる陰部静脈瘤も含まれます。無症状の場合もありますが、痛みを伴うことがあり、外科治療として結紮術(血管を縛る方法)や硬化療法が有効です。
網目状
径2-3mmの血管が網目状に広がった状態です。多くは無症状ですが、痛みが生じることもあります。外科治療として硬化療法が有効です。
蜘蛛の巣状
径1mm程度の細かい血管が蜘蛛の巣状に広がった状態で、太ももの外側や膝の裏、足首などによく見られます。基本的に無症状ですが、外科治療として硬化療法が有効です。
静脈瘤の検査
弁の壊れた静脈が静脈瘤の原因ですが、これを同定して治療方針を決定するために足の超音波検査が必要です。当院では検査時に短パンをはいてもらい、両足の付け根からふくらはぎまで広範囲にわたって超音波検査を行います。
静脈瘤の治療内容
血管内焼灼術(血管内レーザー焼灼術)
当院で使用している血管内レーザー焼灼装置
(波長1470nm、販売元インテグラル社)
下肢静脈瘤の外科手術として、以前から静脈抜去術(ストリッピング術)という原則入院が必要な治療が主流でしたが、2011年にレーザー治療(血管内焼灼術)が健康保険の適用になってから急速に日帰りのレーザー治療が広く行われるようになってきました。この治療は伏在静脈が原因で静脈瘤が生じる伏在型の静脈瘤に対して行われます。
血管内焼灼術の特長として、1)入院が不要であること、2)皮膚に手術創が残らないこと、3)術後の内出血が少ないため痛みが少ないこと、4)治療翌日から入浴が可能であること、5)保険適用のため費用が大幅に減ったことなどが挙げられます。
光ファイバーという細い管を伏在静脈に入れて、静脈の周りの麻酔(TLA麻酔という特殊な麻酔)をした後に、その先端からレーザー光を照射します。そこで発生した熱により静脈を閉塞させる治療です。
当院では、静脈瘤治療を1000例以上手がけたレーザー治療の実施医・指導医である院長が痛みの少ない最新のレーザー焼灼装置(波長1470nm)を用いて日帰り手術を行います。2018年にスリムファイバーを用いることができるようになってから、手術中の痛みがさらに軽減されるようになりました。術後は弾性ストッキングを履いて頂きますが、翌日から入浴可能であり、普段通りの生活を送ることができます。手術後は治療の効果を判定するため、術後1週間以内、1ヶ月、3ヶ月に来院して頂きます。
血管内塞栓術(グルー治療)
当院で使用している
VenaSealTM クロージャーシステム
(Medtronic社)
下肢静脈瘤の日帰り治療の選択肢として、血管内焼灼術に続いて、2019年12月に瞬間接着材(グルー)を使用した血管内塞栓術(グルー治療)が保険適用となりました。
血管内焼灼術と同様にカテーテルを用いて異常がある伏在静脈を閉塞する治療法ですが、血管内焼灼術と比べて、さらに痛みが少なく、熱による組織のダメージがなく、術後にストッキングによる圧迫治療が原則不要となり、患者様の負担がさらに軽くなりました。
長所
広範囲の麻酔が不要
熱による組織のダメージがないために術後の痛みや神経の損傷がない
当日から運動が可能で生活の制限がない
原則として術後に弾性ストッキングによる圧迫が不要(ストッキングが履けない方に最適)
短所
まれにアレルギー症状(赤く腫れるなど)が生じることがある
長期にわたり血管内に接着材が残る
静脈抜去術(ストリッピング術)
下肢静脈瘤に対して従来から行われている治療です。原則として入院が必要な治療ですが、当院ではTLA麻酔を用いることにより日帰りで静脈抜去術ができるようになりました。レーザー手術が困難な伏在型の静脈瘤を対象に行っています。
瘤切除・穿通枝結紮
レーザー治療だけでは瘤を小さくできない症例や不全穿通枝(弁が壊れた筋肉を貫く静脈)により静脈瘤が生じている症例に対して、積極的にこの方法を行っています。できるだけ小さな数ミリの切開で瘤状の静脈を引き抜きますので、創はあまり目立ちません。
硬化療法
硬化療法で使用する硬化剤(販売元ゼリア新薬社)
伏在静脈のような太い静脈ではなく、細い静脈の異常により生じる分枝型、網目状、蜘蛛の巣状の静脈瘤に適した治療法です。泡状にした硬化剤(ポリドカスクレロール)を目立った静脈に注入することにより、治療した部分の血流がなくなり血管が目立たなくなります。合併症として、手術後に軽度の色素沈着が見られることがありますが、その多くは半年から1年程度で消失します。
静脈瘤の手術の費用
手術の種類 | 片足の場合(3割負担) | 両足の場合(3割負担) |
---|---|---|
血管内焼灼術(レーザー焼灼術) | 約35,000円 | 約70,000円 |
血管内塞栓術(グルー治療) | 約50,000円 | 約100,000円 |
静脈抜去術 | 約35,000円 | 約70,000円 |
硬化療法 | 約6,000円 | 約12,000円 |
上記以外に術前検査の費用(保険適用)と弾性ストッキングや弾性包帯(保険適用外で一足3,500-5,000円程度)がかかります。
静脈瘤治療の流れ
血管内焼灼術(レーザー焼灼
血管内塞栓術(グルー治療)
外来で足の静脈の超音波検査を行い、治療の対象となる静脈を決定します。
同時に手術前の検査として、血液・尿検査、胸部レントゲン、心電図を行います。
手術当日は点滴を入れて、手術室に入ります。治療を行う静脈の位置をマジックでマーキングした後に、足を消毒します。
局所麻酔をしてから細い治療用のカテーテルを静脈の中に挿入します。
薄めた麻酔薬を静脈の周囲に十分に注入(TLA麻酔)した後、レーザーを用いて静脈を焼灼します。
カテーテルを通じて、瞬間接着材(グルー)を静脈に注入した後、静脈を圧迫します(静脈周囲の麻酔は不要)。
カテーテルを抜いた後、足を弾性ストッキングや圧迫包帯で圧迫して手術終了です。
カテーテルを抜いた後、刺した部位のみ包帯で圧迫して手術終了です。
帰宅後、圧迫包帯を2日間、弾性ストッキングを7日間装着します。手術翌日から通常の生活を送ることができます。
帰宅後、弾性ストッキングによる圧迫は不要です。
手術当日から通常の生活を送ることができます。
治療効果を判定するために、手術後1週間以内、1ヶ月、3ヶ月と3回来院して、足の超音波検査を受けて頂きます。
不適切治療にご注意!
一部のクリニックでは「下肢静脈瘤がない健康な足」や「静脈瘤が軽症で手術の必要がない足」に対して「下肢静脈瘤血管内焼灼術」が行われていることをご存じでしょうか。日本静脈学会はこのような「不適切治療」の実態調査を行い、違反した医療機関に注意喚起を行うとともに一般向けの解説書を用意しました。詳しい内容につきましては2020年11月に学会が作成した「あなたにその手術、本当に必要ですか?」をご参照ください。 「隠れ静脈瘤があるから手術をしましょう」とか、「手術をしないと大変なことになりますよ」という言葉にくれぐれも騙されないでください。派手な宣伝に乗せられないようにしてください。疑問があれば、かかりつけ医や血管外科の医師に相談することをお薦めします。
下肢静脈瘤Q&A
- Q なぜ足に静脈瘤ができるのですか?
- 足の皮膚近くにある静脈(表在静脈といいます)の逆流防止弁が何らかの理由でいくつも連続して壊れることにより静脈瘤が生じます。この異常により、本来なら心臓に向かってしか流れない静脈血が、足を下げると足先の方向へ逆流するため、足の静脈内の血液が溜まり、静脈が膨れて瘤になります。
- Q 足の血管がぼこぼこ目立ちますが、これは下肢静脈瘤ですか?手術は必要ですか?
- 診察しないと断言はできませんが、下肢静脈瘤だと思われます。足がだるい・重い、夜中や明け方に足がつる、足の皮膚が茶色に変色してくる、など静脈のうっ滞症状が明らかな方に手術をお薦めしています。
- Q 最近、足がむくみやすくなりました。明らかな静脈瘤はないようですが、「かくれ静脈瘤」が原因ではないですか?
- 静脈瘤があるのに、肥満や足のむくみのせいで静脈瘤が分かりにくい状態を「かくれ静脈瘤」と呼ぶことがあるようです。静脈瘤を疑った場合は静脈瘤に詳しい血管外科医などの専門医を必ず受診してください。以前は機能が正常であるにもかかわらず、静脈がやや太いだけで「かくれ静脈瘤」があるからと説明して手術を行っていた非専門医の存在が明らかとなり、日本静脈学会で大きく問題視されることがありました(上記の「不適切治療にご注意を!」を参照して下さい)。むくみの原因は静脈瘤以外にも沢山ありますので、むくみに詳しい医師の診察を受けるようにしてください。
- Q 下肢静脈瘤がありますが、できれば手術を受けたくありません。何か良い方法はありますか?放っておくとどうなりますか?
- 静脈瘤がある方全員が手術を受ける必要はありません。静脈瘤による症状で日常生活に不便を感じなければ、様子を見ることも可能です。その場合は、日中に弾性ストッキングを着用することをお薦めしています。こうすることで静脈瘤の進行を遅らせたり、血栓性静脈炎(瘤内の血液が突然に固まり痛みを生じること)を予防したりすることができるからです。
- Q 静脈瘤の手術を考えています。どのような治療法がありますか?
- いわゆる血管がぼこぼこ出ているタイプの静脈瘤(正確には伏在型静脈瘤)の場合、当院では血管内焼灼術(レーザー焼灼術)または血管内塞栓術(グルー治療)を行っています。両者の治療の長所や短所については当院のホームページに記載がありますのでご参照ください。最終的にどちらの術式を選択するかは、担当医が患者様と相談して決めます。以前は静脈を抜去するストリッピング手術が行われてきましたが、手術時間が長くなる、いくつもの創が残るなどの理由で現在は限られた症例に行っています。また、規模の小さな静脈瘤や細かい静脈瘤に対しては静脈内に薬品を注入する硬化療法を行っています。
- Q 糸くずのような細かい血管が足に目立つようになりました。これも静脈瘤ですか?どうしたら良いでしょうか?
- 足に細かい血管が目立つようになることがありますが、これも静脈瘤であり、網目状や蜘蛛の巣状静脈瘤と呼ばれています。一度できてしまうと消えることはなく、また、予防する有効な方法もあまりありません。このような静脈瘤に対しては静脈内に薬品を注入する硬化療法が有効です。
- Q 静脈瘤の手術は保険がききますか?
- 伏在型や分枝型静脈瘤といった比較的太い静脈瘤の場合、痛みや皮膚炎などのうっ滞症状が出やすいため、一般的に保険診療の適応になります。網目状や蜘蛛の巣状の静脈瘤は外見上の問題が多く、保険診療の適応にならないことがあります。
- Q 静脈瘤の手術を受けましたが、すぐに再発することはありますか?
- レーザー焼灼やグルー治療後、すぐに再発することは稀ですが、治療の数年後に別の静脈に異常が生じて、静脈瘤が再発することはあります。再発でお困りの方には、当院で検査のうえ、適切な治療法をご提案いたします。
- Q 手の甲や腕の静脈が目立ちます。これは静脈瘤でしょうか?
- 手や腕に静脈瘤が生じることはほとんどありません。加齢により皮膚が薄くなり、皮下脂肪の減少とともに、静脈が目立ってきた状態だと思われます。手や腕の静脈を目立たなくする治療を行っている医療機関はありますが、病気やけがのときに採血や点滴に必要な静脈がなくなりますので、当院では足以外の静脈瘤の治療はお薦めしていません。
足のむくみ(浮腫)
最近、足のむくみやだるさが気になりませんか?むくみ(浮腫)とは皮下脂肪に過剰な水分が溜まった状態で、主に血管やリンパ管の圧の上昇や血管の壁の透過性が亢進すること(血管の中から水が浸み出していく状態)によって生じる異常な状態です。単に皮下脂肪が厚くなる肥満とは全く異なるものです。
むくみの多くは一晩寝れば翌日には改善するうえ、苦痛を伴うわけではないために気にされない方が多いと思います。受診するにしても何科にかかったらいいのか迷うことも多いのではないでしょうか。
足のむくみやだるさは長時間足を下ろしているだけでも生じる現象ですが、重大な病気の兆候の可能性があります。特に、急に足が腫れてきたり、痛みを伴ったりする場合は一刻も早く受診する必要があります。当院での足のむくみ(浮腫)の症例を多数診察していますので、気になる方はご相談ください。
浮腫のセルフチェック
次のような方はすぐに受診してください!
- 急に足がむくんできた
- 痛みを伴ったり、赤く腫れてきたりしている
- 朝起きたときも足がまだむくんでいる
- 足のむくみが何日も続いている
- 皮膚の色が変色してきた
次の方はなるべく早く受診してください
- 朝と比べて夕方の方が明らかにむくんでいる
- 徐々にではあるが確実にむくみ始めている
- 痛みや皮膚の色の変化はないが、左右の足の太さが明らかに違う
- ふくらはぎや足だけではなく、太もももむくんできた
- むくみだけでなく、足の血管が目立ってきた←下肢静脈瘤疑い
浮腫の分類と原因
浮腫やだるさについて重要なことは両足に生じているのか、片足だけに生じているのかということです。両足に浮腫があれば主な原因は骨盤より上に存在し、片足であれば骨盤より下に存在する可能性が高いと考えられます。
1)両足に浮腫を生じるもの
心疾患(慢性心不全)、腎疾患(慢性腎不全、ネフローゼ症候群)、肝疾患(肝硬変)、低アルブミン血症(低栄養)、甲状腺機能異常(主に機能低下症)、後腹膜・骨盤内疾患(腫瘍、線維症)、薬剤性(一部の降圧剤や糖尿病薬、ステロイドなど)、塩分の過剰摂取、肥満など
2)片足に浮腫を生じるもの
下肢静脈瘤、静脈うっ滞(慢性静脈不全)、深部静脈血栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)、リンパ浮腫、関節炎、蜂窩織炎、外傷など
浮腫に関する診察・検査
片足の場合、骨盤内または下肢に原因があることが多いため、以下のような検査を行います。
- 血液検査(Dダイマーが上昇しているときは深部静脈血栓症を疑います)
- 下肢の超音波検査(静脈の流れの異常、血栓の有無の判定に有効です)
- 骨盤・下肢CT検査(骨盤内の腫瘍や血管内の血栓の有無の判定に有効です)
両足の場合、全身性の疾患が原因になっていることが多いため、以下のような検査を行います。
- 血液検査(心不全・肝機能障害・腎機能障害・甲状腺機能異常の判定に有効です)
- 胸部レントゲン検査(心不全の判定に有効です)
- 腹部・骨盤の超音波検査(肝硬変、腹水、腫瘍、血管内の血栓の有無の判定に有効です)
- CT検査(超音波検査とほぼ同様ですが、より細かい情報が得られます)
浮腫の治療法
足の浮腫を生じる病気がある方はかかりつけ医または専門医と相談して速やかに治療を行ってください。
足のむくみは夜間よりも日中起きているときに悪化していきますので、以下の通り日中の活動に注意してください。
足の挙上・ふくらはぎの運動
長時間の立ちっぱなしや座ったままの姿勢は避けてください。椅子に座るときは隣に同じ高さの椅子や台を置いて、お尻と足の高さを同じにしてください。リクライニングチェアなどを用いるのも有効です。仕事などでこのような姿勢を取ることができない方は、休憩中に歩くように心がけたり、座ったままかかとの上下運動をしたりして、第2の心臓と言われるふくらはぎをできるだけ動かすことを心がけてください。
足のマッサージ・ストレッチ
寝る前や入浴時に足のマッサージやストレッチを行うことより、むくんだ足の血液やリンパの流れを改善することができます。
塩分制限
塩は水分を抱え込む性質があるために、取り過ぎると余分な水分を出すことができなくなります。これがむくみの原因になったり、血圧が上がったりしますので、できるだけ塩分を控えましょう。
弾性(着圧)ストッキングの着用
弾性ストッキングによる足の圧迫は就寝中よりはむくみが生じやすい日中に行うことが有効です。弾性ストッキングはドラッグストアで購入できますが、当院では足の寸法を測定することにより的確なサイズ・圧のストッキングをご提案できますので、ご相談ください。
リンパ浮腫
どのような病気?
血管と同様に全身に張り巡らされているリンパ管を流れているリンパ液が滞ることにより、水分が周囲に漏れ出すことで生じる浮腫のことです。生まれつきの異常または原因不明のものが一次性リンパ浮腫、がんの手術や放射線治療の後遺症として生じるのが二次性リンパ浮腫で、二次性リンパ浮腫の方が圧倒的に多く見られます。通常は片側だけがむくみますが、両側にむくみが生じることもあります。
リスクの高い人は?
一次性のリンパ浮腫は原因不明が多いためにどのような方に生じるかは不明ですが、若い方に多く見られます。二次性リンパ浮腫の多くはがんに対する手術または放射線治療後に生じます。乳癌の手術をした後は同じ側の腕に、子宮・卵巣癌や前立腺癌の手術や放射線治療の後はどちらか片方の足に生じることが多く、がん治療の直後に生じる場合もあれば、10年以上経過してから生じる場合もあります。このような治療を受けた方は普段から手足がむくんでこないか注意する必要があります。
どうやって診断するの?
片側の腕または足に生じることが多く、ゆっくりと進行してきます。初期の段階では皮膚の色の変化や痛みを生じることはありませんが、進行すると皮膚やむくみが硬くなり、押すと痛みを生じるようになります。皮膚が極端に硬く厚くなった状態を象皮症といいます。 アイソトープという放射性物質を手首または足首のリンパ管に入れて行うリンパ管造影という方法でリンパ浮腫であることを確定することができます。
治療法は?
残念ながらリンパ浮腫が自然に治ることはまれです。一般的な治療法は、弾性ストッキング(腕の場合はスリーブ+グローブ)や弾性包帯による圧迫とマッサージ(用手的リンパドレナージ)を組み合わせた複合的理学療法が有効です。リンパドレナージはリンパ浮腫療法士という資格を持った専門家が行うマッサージ技術で、滞ったリンパ液を正常なリンパ管に向けて誘導する方法です。(2016年に複合的理学療法が健康保険に適用になりました) 手術治療としては、リンパ管と静脈をつなぐことにより滞っているリンパ液を静脈内に流すリンパ管静脈吻合術があり、症例によってはかなり浮腫が改善します。 リンパ浮腫の手足はわずかな傷やタコ、水虫の部位から細菌が入って、手足全体が真っ赤に腫れて熱を持つ蜂窩織炎という状態になりやすいことが知られています。蜂窩織炎になると安静にして、連日に渡って抗生剤を投与することが必要になります。予防のためには常に足を清潔にして、水虫の治療や保湿剤などによる日常のスキンケアを行うことが重要です。
深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)
どのような病気?
主に足の深いところに流れている静脈(深部静脈)の中に血のかたまり(血栓)ができる状態です。これにより、片側の足に痛みを伴う腫れが生じます。静脈内の血栓の一部がちぎれると下大静脈を通り、心臓を経由して肺に移動し肺動脈が詰まります。この状態を肺塞栓症といいます。この血栓が小さいときは無症状ですが、大きいときは胸痛、呼吸苦、最悪の場合は呼吸困難となり突然死を起こすことがあります。長時間、脱水状態のまま飛行機の機内で動かずにいると、静脈内に血栓が生じて突然に発症することがあるため、エコノミークラス症候群とも言われます。
どうして血栓が生じるの?
深部静脈に血栓が生じる原因としては次のものが考えられます。
1)静脈の血流の低下
入院中や災害時の避難の際など長時間にわたって安静にしている場合、長時間ふくらはぎの筋肉を動かさないために足の静脈内の血液がよどみやすくなります。これに脱水状態が加わることで血液の粘性が高くなり、血液が固まりやすい状態になります。
2)血液が凝固しやすい状態
体質上、血液を固める蛋白に異常がある方(先天性凝固異常)や進行がんがある方は血液が凝固しやすい状態になるため、この病気が発生しやすいことが分かっています。また、経口避妊薬など一部の薬剤により血液が固まりやすくなることがありますので注意が必要です。
どうやって診断するの?
無症状の場合、診断は難しいですが、比較的急に片側の足が赤く腫れて、痛みを生じる場合は深部静脈血栓症を疑います(時に蜂窩織炎との区別が困難な場合があります)。血管エコー検査ができる医療機関ならば、これにより血栓の場所や大きさを速やかに診断することができます。また、血液検査ではDダイマーを測定し、血栓症であれば、異常な高値を示します。 足が赤く腫れたうえ、胸痛や呼吸苦を伴う場合は重症の肺塞栓を伴っている場合がありますので、直ちに救急搬送する必要があります。造影CTスキャンにより、足の静脈血栓の評価だけでなく、肺塞栓の診断が可能になります。 血栓症を生じた静脈は弁が壊れるために血流に異常が生じることがあります。このため、足の浮腫が続いたり、皮膚が変色(静脈うっ滞性皮膚炎)または潰瘍ができたりすること(静脈うっ滞性皮膚炎)があります。
(深部静脈血栓症のイラストの出典は「血栓症.net」(バイエル株式会社)
治療法は?
治療の目標は肺塞栓を悪化させないこと、静脈内の血栓を小さくすることです。基本的には入院が必要で、血液をサラサラにする薬(抗凝固薬)を点滴や内服で投与します。これにより、多くの血栓は溶解し、小さくなります。また、肺塞栓を予防するためにフィルターという金属でできた器具(フィルター)を下大静脈内に挿入することがあります。浮腫を改善するためと足の血流を改善するために弾性ストッキングの着用が必要です。退院後も抗凝固薬の内服とストッキングの着用は継続します。特に、静脈の流れの異常により皮膚炎や潰瘍が生じた場合は高圧の弾性ストッキングの着用が有効です。
予防法は?
飛行機の機内や避難所などで長時間にわたり体を十分に動かせない場合は、定期的に歩いたり、足を上げ下げしたりするなど運動をすることと水分を多めにとって脱水にならないことを心がける必要があります。
深部静脈血栓症の再発を予防するため、リスクの高い方(凝固異常や進行がんがある方や体を動かせない方)は退院後も抗凝固薬を長期間継続する必要があります。
- 足の浮腫は片側と両側で原因が異なる。片側の場合は骨盤か足に原因あり、両側の場合は全身の疾患や異常に原因があることが多い。
- 足が急に腫れたり、発赤や痛みを伴ったり、浮腫が数日以上続く場合はなるべく早い受診が必要である。
- リンパ浮腫は、子宮・卵巣や前立腺の癌の術後は足(通常は片側)に、乳癌の術後は手術側の腕に生じやすい。
- 深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)は足だけでなく、肺の血管が詰まることにより命に関わる病気であるため、発生予防に努めるべきである。
足の血行障害(末梢動脈疾患)
どういう病気なの?
骨盤や足の動脈が徐々に狭くなるまたは詰まるために、足の血流が悪くなる状態を末梢動脈疾患(Peripheral Arterial Disease: PAD)といいます。このような足の血流障害の多くは動脈硬化が原因で生じるため、閉塞性動脈硬化症とも言われます。糖尿病・脂質異常症・高血圧などの生活習慣病がある、肥満・運動不足である、喫煙をしているなど動脈硬化が進みやすい方に生じやすい病気です。特に糖尿病や血液透析を受けている方は膝より下にある細い動脈が詰まりやすいため、重症の血行障害になりやすく注意が必要です。
動脈硬化は足の動脈だけではなく、全身に起こる病気です。末梢動脈疾患がある方は動脈硬化が原因となる狭心症・心筋梗塞や脳梗塞など命に関わる病気を起こす可能性があるため、足だけでなく心臓や脳血管の検査も必要になります。
足の血行障害(末梢動脈疾患)は
- 足の動脈が狭くなるまたは詰まる病気である
- 主な原因は動脈硬化である
- 生活習慣病(糖尿病、脂質異常症、高血圧など)があると起こりやすい
- 特に糖尿病や血液透析を受けている方は重症化しやすい
- 心臓や脳の血管にも動脈硬化が生じるために、狭心症・心筋梗塞や脳梗塞になりやすい
血行障害の分類と症状
末梢動脈疾患の症状は重症度によって分類されます。(フォンテイン分類)
I度 | 足が冷たい、足が痺れる、足の皮膚が白い |
---|---|
II度 | 歩くと足が痛くなるが、休むと再び歩けるようになる( 間欠性 跛行 ) |
III度 | じっとしていても足が痛くなる |
IV度 | 足の皮膚に潰瘍ができたり、壊死を起こしている |
この表の中では下に行くほど重症であり、足を切断する可能性が高くなりますので早く専門医を受診する必要があります。
血行障害に対する診察と検査
まずは足の皮膚温に左右差があるか、足の動脈の脈拍を触れることができるか、を診ることにより血行障害の有無がある程度分かります。手足の血圧を測定し、その比率を求める足関節上腕血圧比(Ankle-brachial Pressure Index)が低下した場合、血行障害を強く疑います。血管エコー検査と造影CT検査、血管撮影を行うことにより動脈が狭くなっている、または閉塞している場所を同定することができます。
血行障害の治療
軽症(フォンテイン分類I度)の場合は、運動療法と薬物療法による保存的治療を行います。運動療法とは歩くなど足の筋肉を使うことにより詰まった動脈の周囲の血管(側副血行路)を発達させ、血流を回復させる治療法です。また、薬物療法として血液をサラサラにする抗血栓薬や血管拡張薬を内服します。
中等症(フォンテイン分類II度)の場合は、運動療法と薬物療法以外に血行再建術という手術を行うことにより足の血流を回復させる方法があります。血行再建術にはカテーテルを使用して狭いところをバルーンやステント(編み目になった筒状の金属)で広げる血管内治療と、人工血管や自分の静脈を用いて狭いところをバイパスする外科手術があります。
重症(フォンテイン分類III度以上)の場合は、血流が極度に低下しているために早期の治療が必須です。薬物療法の他、血行再建術を積極的に行うことにより、血流をなるべく早く改善する必要があり、血行再建が不可能な場合は足を切断することもあります。
(イラストはいずれも大塚製薬社のHPより引用)
血行障害のセルフチェック
- 足先が冷たい、皮膚の温度に左右差がある
- 足先の皮膚の色が白色または紫色に変化している
- 長時間あるくとふくらはぎが痛くなってくる
- じっとしていても足が痛い、足を上げると痛くなる
- 足先にできた傷がいつまでも治らない
このような症状がある方はなるべく早く専門医を受診されることをお薦めします。
- 院長
- 木村秀生
(日本外科学会外科専門医) - 診療内容
- 内科・外科・血管外科・乳腺外科・消化器内科・在宅診療
- 住所
- 〒332-0035
埼玉県川口市西青木1-21-19 - アクセス
- 西川口駅東口より徒歩6分
西青木二丁目バス停すぐ - 電話番号
-
048-291-8560
インターネット診療予約
診療時間 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日・祝 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
9:00~12:00 (初診は11:30まで) |
● | ● | - | ● | ● | ● | - |
15:00~18:00 (初診は17:30まで) |
● | ○ | - | ● | ● | - | - |
休診日:水曜、日曜、祝日
○:火曜日の午後の診療は予約のみです。